世界の終り


やっと
世界は終わったのだという
鈍色の水面を照らす灯台の灯りは
世捨て人をも見放して
夜風に屹立して静寂
暗夜に映える孤独の影絵に
語る言葉も今はなく


茂みに乗り捨てられた一台の車
その傍に一匹の黒猫が座っている
二人は互いに身を寄せ合い
世界の終極をただ待ちわびる
朽ちたヘッドライトから油の雫
黒猫はそっと近寄って
滴り堕ちる記憶を舐めた


《記憶》


それは
わたしとあなたの境界で
わたしたちの物語を紡ぐ


――――――――――


そこではひとり
少女が祈り続けていた
押し打ち寄せる波の群れに
華奢な四肢を浸らせながら
腕を切り取られた母と
声を失った父の為に


終わってしまった世界の果てに
一滴の涙を捧ぐ


対岸に見えるのは狼煙
終に戦争が始まった
これで最後と少女は願い
虚空に糸を伸ばし続ける
歴史を清算するために
明日の到来を祈り続ける