蜘蛛の糸


ゆらゆらと
視界にゆれるのは糸だろうか
もしくは煙草の残り香
ただようまぼろし
ほどけてからまって
朝露に濡れた蜘蛛の糸
とてもきれいだった


落ち葉をかさかさ踏みならして
通りを行き交う人々の靴音はまばら
遠く聴こえる風の声
まるで古い映画のようだ
それは男と女の会話が延々と続く
ただそれだけのセピアフィルム
なんども観た
あきあきするほどに
でもこんどこそ
もしかすると
ほんとうに飽きてしまったのかもしれない
いっそのことそのフィルムを
焼き払ってしまおうか
どうせできないのだろうけど


映画の男が吸っていた煙草の銘柄は
わたしとおなじハイライトだった気がする
コートのポケットから一本取り出して
火をつけ胸いっぱい吸い込んでみて
苦しくなってむせた
それがなんだか懐かしくって


だから


そろそろおうちにかえろう
蜘蛛の糸に輝く雫が
落ちてしまうその前なら
まだ愛せるような気がしたから